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退職前に残った有給休暇を消化するとき、給与明細の「有給手当」が思ったより少なかった、あるいは想像より多かったという経験をした人は少なくありません。時給や日給が同じでも、会社がどの計算方式を採っているかで有給1日分の金額は変わります。特に残業や深夜手当が多い月給制の人、シフトの日数が週ごとに違うアルバイトの人は、明細の金額に納得がいかず「本来いくらもらえるはずだったのか」を調べたくなります。
結論から言うと、有給手当は労働基準法39条9項が定める3通りの算定方法のいずれかで決まり、会社は就業規則などであらかじめどれを使うかを定めておく必要があります。選ぶ基準は「自分の賃金形態に対してどの方式が有利になりやすいか」を知り、実際の明細がその方式で計算されているかを確認することです。ここでは3方式それぞれの計算式と具体的な金額例、方式の選び方、そして受け取った有給手当にかかる税金の扱いまで順に見ていきます。
有給手当は労働基準法39条9項の3方式で決まる

年次有給休暇を取得した日に支払われる賃金(有給手当)の算定方法は、労働基準法39条9項で次の3つに限定されています。会社はこのうちどれを使うかを就業規則に定め、原則として全員に同じ方式を継続して適用します。
- 平均賃金(過去3か月の賃金総額をその期間の暦日数で割った額)
- 所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金(いわゆる「通常の賃金」方式)
- 健康保険法の標準報酬日額(標準報酬月額を30で割った額。採用には労使協定が必要)
3つ目の標準報酬日額方式だけは、労働者側と会社側が結ぶ書面の取り決め(労使協定)がなければ使えません。協定がないのにこの方式で計算されている場合は、根拠を欠くことになります。1つ目と2つ目は労使協定なしで採用できますが、どちらか一方に会社が定めておく必要があり、日によって都合よく使い分けることはできません。
3方式の計算式と金額例
同じ人でも方式が変われば1日分の金額が変わることを、具体的な数字で確認します。以下は仕組みを示すための計算例で、実際の金額はご自身の賃金額に置き換えてください。
1. 平均賃金方式の計算例
平均賃金は、有給取得日の直前の賃金締切日からさかのぼった3か月間の賃金総額を、その期間の総暦日数(土日祝を含む)で割って求めます。残業手当や各種手当も賃金総額に含まれるのが特徴です。
- 直近3か月の賃金総額(例): 720,000円
- その3か月の暦日数(例): 92日
- 平均賃金 = 720,000円 ÷ 92日 = 約7,826円(有給1日分)
暦日数で割るため、労働日数が少ない月がある人や、休日が多く実労働日が少ない働き方の人では、1日分が通常の賃金より低く出やすい傾向があります。なお賃金総額が極端に低くなる場合の最低保障(労働した日数で割り直す計算)など、細かな例外は労働基準法12条に定めがあります。
2. 通常の賃金方式の計算例
通常の賃金方式は、その日に所定労働時間どおり働いたら支払われるはずの賃金をそのまま支払う方法です。月給制なら通常はその日の欠勤控除をしない(=給料が減らない)扱いになり、計算がわかりやすいのが利点です。時給制・日給制の場合は次のように求めます。
- 時給(例): 1,200円
- 1日の所定労働時間(例): 8時間
- 有給1日分 = 1,200円 × 8時間 = 9,600円
アルバイトやパートで「有給の金額がいくらになるか」を調べている場合、多くの職場はこの通常の賃金方式です。シフトが日によって違うと、有給を取得する日の所定労働時間をどう決めるかが問題になりますが、週の所定労働日数や直近の勤務実績をもとに1日の平均的な所定時間を算出して当てはめる運用が一般的です。
3. 標準報酬日額方式の計算例(労使協定が必要)
標準報酬日額方式は、健康保険料の計算に使う「標準報酬月額」を30で割った額を有給1日分とする方法です。前述のとおり、この方式を使うには労使協定が前提です。
- 標準報酬月額(例): 240,000円
- 標準報酬日額 = 240,000円 ÷ 30 = 8,000円
標準報酬月額は等級ごとに区切られているため、実際の月給と完全には一致しません。人によっては通常の賃金より高く出ることも低く出ることもあります。
同じ人でも金額が変わる
| 算定方式 | 1日分の金額(上記の例) | 労使協定 | 向いている賃金形態 |
|---|---|---|---|
| 平均賃金 | 約7,826円 | 不要 | 手当・残業が変動する人 |
| 通常の賃金 | 9,600円 | 不要 | 月給制・時給制の多く |
| 標準報酬日額 | 8,000円 | 必要 | 協定を結んだ職場 |
この例では同一人物でも約1,800円の差が出ています。有給が10日残っていれば、方式の違いだけで1万数千円の差になる計算です。自分の明細がどの方式かは、就業規則の賃金・休暇規定に記載されています。
自分の有給手当がどの方式か確認するフロー

明細の金額に疑問があるときは、次の順で確認すると原因を切り分けやすくなります。
- 就業規則の有給に関する条文を読む。「年次有給休暇中の賃金は◯◯により支払う」といった記載で方式が特定できます。
- 標準報酬日額方式なら労使協定の有無を確認する。協定が見当たらないのにこの方式なら、根拠を会社に尋ねます。
- 記載どおりに1日分を計算し、明細と照合する。ずれていれば計算誤りの可能性があります。
- 説明を求めても是正されない場合は、労働基準監督署への相談や、後述の交渉窓口の利用を検討します。
退職に合わせて有給をまとめて消化する場面では、そもそも消化自体を渋られたり、手当の計算方式でもめたりすることがあります。会社と直接やり取りしたくない、あるいは交渉ごとが伴うと感じる場合は、有給の消化や金額の取り扱いを会社に伝えて調整してもらえる退職代行を使う選択肢もあります。運営主体によって「会社への交渉ができる型」と「意思を伝えるだけの型」に分かれるため、型ごとの違いは退職代行おすすめ8社比較|有給交渉できるのはどの型かで確認してください。
有給手当にかかる税金の扱い

受け取った有給手当は、通常の給料と同じ「給与所得」として扱われます。国税庁の区分では、労働の対償として使用者から受ける給付は給与所得に当たり、有給休暇中に支払われる賃金もこれに含まれます。したがって次のような扱いになります。
- 所得税の源泉徴収の対象。給料と合算して源泉徴収されます。
- 社会保険料の算定対象。標準報酬月額の計算にも反映されます。
- 年末調整・確定申告では、その年の給与収入の一部として扱われます。
ここで混同しやすいのが「有給の買取金」です。退職時などに未消化の有給を会社が金銭で精算するケースがありますが、その金額の課税区分は精算の性質によって扱いが分かれることがあり、通常の有給手当と一律には言えません。買取そのものが認められる場面は限られるため、詳しくは有給の買取を扱う記事もあわせて確認してください。いずれにしても、有給を「休んで消化」した分の手当は給与所得として課税されると理解しておけば、明細の手取りが額面より少ない理由を説明できます。
税額の具体的な計算や控除の当てはめは個々の収入状況によって変わるため、正確な金額は源泉徴収票や税務署・税理士の確認に基づいて判断してください。
よくある質問
有給を1日取っても、月給が減らないのはなぜですか
月給制で通常の賃金方式を採っている場合、有給取得日は欠勤控除をしない扱いになるため、給料が減りません。これは労働基準法39条9項の「通常の賃金」を支払っている状態です。日給・時給の人は取得日ごとに1日分が加算される形になります。
アルバイトでも有給手当はもらえますか
付与の条件(入社から6か月継続勤務・全労働日の8割以上出勤)を満たせば、アルバイトやパートにも有給が付き、取得日には有給手当が支払われます。金額は多くの職場で通常の賃金方式により「時給×その日の所定労働時間」で計算されます。付与日数は労働日数に応じた比例付与になります。
会社は3方式を自由に切り替えられますか
できません。どの方式を使うかは就業規則等で定め、原則として継続して同じ方式を適用します。取得する日ごとに有利不利で使い分けることは想定されていません。標準報酬日額方式を採るには労使協定が必要です。
残業が多い月に有給を取ると手当は増えますか
平均賃金方式の場合、直近3か月の賃金総額に残業手当などが含まれるため、残業が多い期間が算定に入ると1日分がやや高く出ることがあります。一方、通常の賃金方式では所定労働時間分で計算するため、残業の多寡は基本的に反映されません。
有給手当は源泉徴収されますか、確定申告は必要ですか
有給手当は給与所得として通常の給料と合算して源泉徴収されます。年末調整の対象になるため、給与所得だけの人は原則として別途の確定申告は不要です。副業や医療費控除など他の事情がある場合は、その事情に応じて申告を検討します。
退職時に有給の金額でもめたらどうすればよいですか
まず就業規則の算定方式を確認し、記載どおりに計算して明細と照合します。それでも解決しない場合は労働基準監督署への相談が選択肢です。会社と直接やり取りしたくない場合は、有給消化や条件の調整を代行・交渉できる退職代行の利用も検討できます。交渉可否は運営主体の型で変わります。
参考・出典
- 労働基準法(39条ほか): e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/
- 民法(627条・628条): e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/
- 給与所得の範囲: 国税庁 https://www.nta.go.jp/
- 退職代行おすすめ8社比較(有給交渉できる型の比較): /resignation-service-comparison/

