退職金の上乗せの相場|早期退職と退職勧奨の場合

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45歳・勤続20年のある日、上司に呼ばれて「早期退職優遇制度に応募しないか」と打診された。退職金にいくら上乗せされるのか、相場がわからないまま返事を迫られている。こうした場面で最初に知っておきたいのは、上乗せ額には法律で決まった相場が存在しないという事実です。

上乗せは会社ごとの制度設計と、退職勧奨(会社が個別に退職を促すこと)の場合は個別の交渉で決まります。だから「相場は何か月分」という数字を鵜呑みにするのではなく、まず自社の退職金規程に定められた金額を確認し、そのうえで会社が抱える事情(なぜ人を減らしたいのか)から交渉余地を測る、という二段構えで判断します。この記事では、その判断の手順を、公的統計でどこまで裏が取れるかも含めて整理します。

退職金の上乗せに「法的な相場」は存在しない

厚い就業規則と、それに触れる手の写真
就業規則に目を通す様子(イメージ)

前提として、退職金そのものが法律で義務づけられた制度ではありません。就業規則や退職金規程に支給の定めがあって、はじめて労働者に請求できる権利が生まれます。定めがない会社では、そもそも退職金が出ないこともあります。

その退職金にさらに上乗せ(割増)する早期退職優遇制度や希望退職募集の条件は、会社が独自に設定する任意のものです。国が「早期退職なら何か月分を上乗せせよ」と定めた基準はありません。したがって、世の中で語られる「上乗せの相場」は、あくまで一部の企業が公表した事例を集計した目安であって、あなたの会社にそのまま適用される基準ではない、という点をまず押さえてください。

早期退職・希望退職・退職勧奨の違いを押さえる

「上乗せ」が話題になる場面は、大きく次の三つに分かれます。どれに当たるかで、上乗せの位置づけと、あなたが取れる行動が変わります。

名称 主導するのは 応じる義務 上乗せの位置づけ
早期退職優遇制度 会社(制度として常設・随時募集) 応募は任意 制度の規定に沿って支給
希望退職募集 会社(業績悪化時などに期間限定で募集) 応募は任意 募集条件として提示される
退職勧奨 会社(個別に退職を促す) 断ってよい(応じる義務はない) 合意を得るための交渉次第

早期退職優遇制度と希望退職募集は、条件があらかじめ提示され、応募するかどうかを自分で選べます。一方、退職勧奨は会社が個別に持ちかけてくるもので、応じる義務はありません。断っても、それだけを理由に解雇できるわけではない点は覚えておいてください。上乗せの金額が最も動きやすいのは、この退職勧奨のケースです。

相場観は「出典のある統計」からしか作れない

上乗せ額の目安を知ろうとすると、数字の出どころが問題になります。上乗せ「額」の全国平均を継続的に公表した公的統計は、限られているのが実情です。

ただし、そこで公表されるのは制度を持つ企業の割合などであって、上乗せ額そのものの平均ではありません。

ネット上に出回る「◯か月分が相場」という数字は、出典が示されていないものが多くあります。金額を判断材料にするなら、それがどの調査・どの年度のものかを確認し、出どころのわからない数字は交渉の根拠にしない、という姿勢が安全です。数字を書けない部分は、この記事でもあえて書いていません。

会社が上乗せを払うのは「辞めさせるコスト」があるから

オフィスで窓の外を眺める二人
決断を思案する静かな時間(イメージ)

そもそも、なぜ会社はわざわざ退職金に上乗せしてまで辞めてもらおうとするのでしょうか。背景には、会社が従業員を一方的に解雇するのが簡単ではない、という事情があります。解雇には客観的に合理的な理由と社会的な相当性が求められ、それを欠く解雇は無効と判断されることがあります。争いになれば会社は時間も費用も負い、敗訴のリスクも抱えます。

だからこそ会社は、解雇という強硬手段ではなく、上乗せという「合意で辞めてもらうためのコスト」を払います。つまり上乗せは、解雇に踏み切ったときに会社が負うであろうコストの裏返しです。この視点に立つと、交渉の余地は「会社が解雇を強行した場合の負担」と「あなたに払う上乗せ」を、会社が天秤にかけているところに生まれる、と見えてきます。自分がどの程度上積みを求められるかは、この天秤で測るのが現実的です。

退職勧奨や上乗せの交渉を自分ひとりで進めるのが難しいと感じる場合、交渉に対応できる窓口を使う手もあります。退職代行のなかでも交渉を扱えるのは運営主体によって差があり、その違いは退職代行の比較記事で整理しています。

上乗せをどう判断するか(条件から結論への手順)

打診を受けたら、次の順で確認していくと判断がぶれません。

  1. 自社の退職金規程・早期退職優遇制度の規定を確認する。規定額があるなら、それが上乗せ後の下限の目安になる。
  2. 離職理由が会社都合になるかを確認する。会社都合は失業給付(基本手当)の受給で自己都合より有利になる場合があり、上乗せと合わせて総額で比べる。
  3. 退職勧奨なら即答しない。提示された条件(上乗せ額・退職日・離職理由の区分)を書面でもらう。
  4. 提示額が規定より上積みされているか、さらに交渉余地があるかを、前章の「解雇コスト」の視点で見積もる。
  5. 税金の扱いを確認する。

この手順のうち、金額として断定できるのは自社の規程に書かれた額だけです。相場の数字を先に決めてしまうと、規程額を下回る提示を受けても気づけません。順番を守ることが判断を守ります。

退職勧奨に応じる前の実務チェック

自宅で書類を眺める人物の後ろ姿
自宅で夜に資料を検討する様子(イメージ)

合意退職は、いったんサインすると撤回が難しくなります。応じる前に次を確認してください。

  • 条件を口頭ではなく書面で受け取る(上乗せ額・退職日・離職理由の区分)。
  • 離職票に記載される離職理由が「会社都合」になっているかを確認する。ここが自己都合になると、失業給付の給付制限がかかることがある。
  • その場で即答・即サインをしない。持ち帰って規程と照らす。
  • 体調や精神面で追い込まれている状態での意思表示は、後で「本意ではなかった」と主張しにくくなるため避ける。医療的な負担の感じ方には個人差があるので、無理のない範囲で時間を取る。

よくある質問

早期退職の上乗せに決まった相場はありますか

法律で定められた相場はありません。上乗せは会社が制度や交渉で任意に決めるもので、公表されている数字も一部企業の事例の集計です。まず自社の退職金規程に定めがあるかを確認するのが出発点になります。

退職勧奨を断ったら解雇されますか

退職勧奨に応じる義務はなく、断ったこと自体を理由に解雇することは原則できません。解雇には客観的に合理的な理由と社会的相当性が必要とされます。断った後の会社の対応に不安があれば、記録を残しておくと安全です。

会社都合だと退職金は増えますか

会社都合になったからといって退職金が自動的に増えるわけではありません。増える場合は、会社の退職金規程で会社都合の係数が自己都合より高く設定されているときです。規程の内容を確認してください。

上乗せ分にも税金はかかりますか

上乗せ分も退職金の一部として退職所得の扱いになるのが一般的です。退職所得には控除の仕組みがあり、手取りは勤続年数によって変わります。具体的な計算は勤続年数を当てはめて確認する必要があります。

上乗せの交渉は自分でできますか

自分で交渉することもできますが、退職勧奨の場面では会社側が有利な条件で早く合意させようとすることがあります。金額や離職理由でもめそうなときは、交渉に対応できる専門家や窓口を使うことも選択肢になります。

希望退職と早期退職優遇制度はどう違いますか

希望退職は業績悪化時などに期間を区切って募集されるもので、早期退職優遇制度は会社が制度として設けているものです。どちらも応募は任意ですが、募集の背景と上乗せ条件の提示のされ方が異なります。

参考・出典

  • 民法(退職・雇用契約の解約に関する規定)|e-Gov法令検索 https://elaws.e-gov.go.jp/
  • 労働基準法(退職・解雇に関する規定)|e-Gov法令検索 https://elaws.e-gov.go.jp/
  • 厚生労働省「就労条件総合調査」(早期退職優遇制度の実施状況)|https://www.mhlw.go.jp/
  • 労働政策研究・研修機構(JILPT)|https://www.jil.go.jp/
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